Friday, July 31, 2009
一定期間経過後の出願内容は審査中でも公開される
自分の発明を出願したことで,少しずつ特許に興味を持ち始めた樋口くん。ある日,休憩室でコーヒーを飲んでいた時に,隣のテーブルにいた上木課長と景山先輩の会話が耳に入ってきました。「前の開発プロジェクトで出願した景山の出願って,どうなった?」「あれは確か審査中です。もう公開されていると思いますが」――。ここまで聞いていて樋口くんはワケが分からなくなってしまいました。審査中ということは,まだ特許は取得できていないはず。それなのに出願の内容は公開されてしまうの?
結論からいいますと,出願の内容は,出願の取り下げなどをしない限り,特許権が認められても認められなくても最終的に公開されます。「そんなのは当たり前だろう」とベテラン技術者の方には怒られてしまうかもしれませんが,知らない人も(樋口くんのような若手技術者を中心に)意外と少なくありません。さらに,出願の内容が公開されることによって,設計・開発時に気を付けねばならないこともあります。
1年6カ月後に一律で公開
あらためていうまでもありませんが,特許を取得した場合には,その内容が公開されます。具体的には,特許庁において特許権の「設定登録」*1が行われた後,特許庁から発行される「特許掲載公報」(単に「特許公報」とも)によって公開されます。
*1 設定登録 特許庁の審査官に特許性が認められた(いわゆる特許査定)後,所定の料金を特許庁に払うことによって正式な特許権として登録されること。逆に,特許査定を受けても料金を払わなければ特許権は発生しない。
この特許掲載公報とは別に,出願から1年6カ月が経過した時点で,出願の内容を載せた公報が特許庁から一律に発行されます。この公報を「公開特許公報」といいます。通常,出願から特許として認められた上で特許権の設定登録がされるまでには何年もかかり,出願の審査をしている間に1年6カ月ぐらいはすぐに過ぎてしまいます。このため,特別な場合を除いて,出願すれば特許が取得できていない状態で公開されると考えて問題ないでしょう。このような制度を「出願公開制度」といいます。なお,特許庁の実際の運用上,特許掲載公報や公開特許公報は,およそ1週間の頻度でまとめて発行されています。
従って,景山先輩の出願も樋口くんの出願も,審査中であろうがお構いなしに出願日から1年6カ月が経過したら公開されます。話の流れからいって,景山先輩が出願したのは1年6カ月以上前なのでしょう。樋口くんも将来,上木課長に「どうなった?」と聞かれたときに,出願日から1年6カ月が経過しているかどうかを思い出した上で答えると,「コイツは,分かっているな」と思ってもらえるかもしれません。
自分の出願が原因で拒絶も?
この出願公開制度があることで,設計者として気を付けなければならないことがあります。すなわち,開発初期の段階で(樋口くんのように)製品の大まかな構造に関する発明を出願した後,ある程度開発が進んだ段階でもう少し実際の製品に近い構造に関する発明も出願するとします。その際,開発初期段階の出願内容が出願公開制度によって公開特許公報で公開されていた場合,そのことによって新たな出願が拒絶される恐れもあるということです。もちろん,後発の出願内容が先発の出願内容に比べて進歩性*2があれば問題ありませんが,そうでない場合は拒絶されるかもしれないということです。「自分の出願で拒絶されるなんて殺生な!」と思う人もいるかもしれませんが,いったん世の中に公開された以上は自分の発明であろうが他人の発明であろうが,出願に特許権を与えるかどうかを判断する過程において進歩性の比較対象となります。
*2 進歩性 特許性を判断する際の,出願時点で公開されている発明に基づいて当該技術分野の当業者が容易に思い付けたかどうかという判断基準。今回の例では,先発の出願内容に基づいて後発の出願内容を容易に思い付けると判断されたら出願は拒絶される。
この問題は,開発に何年もかかるような製品で特に注意が必要となります。開発初期段階で出願を検討する場合,発明の斬新さや完成度を考慮した上で,すぐに出願して早期の出願日を確保するのか(早期の出願日の重要性に関しては,先願主義について説明した前回を参照),それともすぐには出願せず発明の完成度を高めていくのかを決めることになります。また,開発初期段階で出願した場合,その後の出願は最初の出願の内容が公開される1年6カ月以内に行うと,前述の問題を回避できます。
他社動向の調査に使える
以上のように,発明者の立場で出願公開制度に起因する注意事項を述べてきましたが,逆に出願公開制度を積極的に利用することも可能です。すなわち,特許出願は常に最新の技術について行われることを考慮すれば,公開特許公報は(1年6カ月のタイムラグがあるものの)他社の最新技術がぎっしりと詰まった貴重な技術文献と考えられます。実際,特許に対する意識が高い企業では,自分たちが手掛ける製品に関する最新の公開特許公報を手に入れ,部署内の技術者同士で回覧したり,他社の特許技術の検討会を定期的に開催したりしています。技術分野によっては,外国企業や研究機関の公開公報も定期的にチェックするなど世界規模で開発動向を調査する場合もあるようです。
こうした調査によって,他社製品の分解・解析だけでは分からない技術の内容を理解したり,他社製品の販売前の開発動向を把握したり,他社の発明から新たなヒントや着眼点などを得て自分たちの開発に役立てたりすることが可能になります。また,自分たちが考案したと思っていた発明について,既に他社が出願を行っており,その出願が審査中であることを発見した場合,早期に開発方針を軌道修正できます。
公開特許公報に関する調査は,一人で行うにはかなり大変な作業ですが,知的財産部に協力を得られる場合がありますし,社外の調査会社に頼むという方法もありますので,自分の所属している部署全体の特許に対する意識が高まれば十分に実行可能です。周りのメンバーが公開特許公報の利用価値についてあまり認識していないようでしたら,あなたが積極的に提案してみてはいかがでしょうか。
結論からいいますと,出願の内容は,出願の取り下げなどをしない限り,特許権が認められても認められなくても最終的に公開されます。「そんなのは当たり前だろう」とベテラン技術者の方には怒られてしまうかもしれませんが,知らない人も(樋口くんのような若手技術者を中心に)意外と少なくありません。さらに,出願の内容が公開されることによって,設計・開発時に気を付けねばならないこともあります。
1年6カ月後に一律で公開
あらためていうまでもありませんが,特許を取得した場合には,その内容が公開されます。具体的には,特許庁において特許権の「設定登録」*1が行われた後,特許庁から発行される「特許掲載公報」(単に「特許公報」とも)によって公開されます。
*1 設定登録 特許庁の審査官に特許性が認められた(いわゆる特許査定)後,所定の料金を特許庁に払うことによって正式な特許権として登録されること。逆に,特許査定を受けても料金を払わなければ特許権は発生しない。
この特許掲載公報とは別に,出願から1年6カ月が経過した時点で,出願の内容を載せた公報が特許庁から一律に発行されます。この公報を「公開特許公報」といいます。通常,出願から特許として認められた上で特許権の設定登録がされるまでには何年もかかり,出願の審査をしている間に1年6カ月ぐらいはすぐに過ぎてしまいます。このため,特別な場合を除いて,出願すれば特許が取得できていない状態で公開されると考えて問題ないでしょう。このような制度を「出願公開制度」といいます。なお,特許庁の実際の運用上,特許掲載公報や公開特許公報は,およそ1週間の頻度でまとめて発行されています。
従って,景山先輩の出願も樋口くんの出願も,審査中であろうがお構いなしに出願日から1年6カ月が経過したら公開されます。話の流れからいって,景山先輩が出願したのは1年6カ月以上前なのでしょう。樋口くんも将来,上木課長に「どうなった?」と聞かれたときに,出願日から1年6カ月が経過しているかどうかを思い出した上で答えると,「コイツは,分かっているな」と思ってもらえるかもしれません。
自分の出願が原因で拒絶も?
この出願公開制度があることで,設計者として気を付けなければならないことがあります。すなわち,開発初期の段階で(樋口くんのように)製品の大まかな構造に関する発明を出願した後,ある程度開発が進んだ段階でもう少し実際の製品に近い構造に関する発明も出願するとします。その際,開発初期段階の出願内容が出願公開制度によって公開特許公報で公開されていた場合,そのことによって新たな出願が拒絶される恐れもあるということです。もちろん,後発の出願内容が先発の出願内容に比べて進歩性*2があれば問題ありませんが,そうでない場合は拒絶されるかもしれないということです。「自分の出願で拒絶されるなんて殺生な!」と思う人もいるかもしれませんが,いったん世の中に公開された以上は自分の発明であろうが他人の発明であろうが,出願に特許権を与えるかどうかを判断する過程において進歩性の比較対象となります。
*2 進歩性 特許性を判断する際の,出願時点で公開されている発明に基づいて当該技術分野の当業者が容易に思い付けたかどうかという判断基準。今回の例では,先発の出願内容に基づいて後発の出願内容を容易に思い付けると判断されたら出願は拒絶される。
この問題は,開発に何年もかかるような製品で特に注意が必要となります。開発初期段階で出願を検討する場合,発明の斬新さや完成度を考慮した上で,すぐに出願して早期の出願日を確保するのか(早期の出願日の重要性に関しては,先願主義について説明した前回を参照),それともすぐには出願せず発明の完成度を高めていくのかを決めることになります。また,開発初期段階で出願した場合,その後の出願は最初の出願の内容が公開される1年6カ月以内に行うと,前述の問題を回避できます。
他社動向の調査に使える
以上のように,発明者の立場で出願公開制度に起因する注意事項を述べてきましたが,逆に出願公開制度を積極的に利用することも可能です。すなわち,特許出願は常に最新の技術について行われることを考慮すれば,公開特許公報は(1年6カ月のタイムラグがあるものの)他社の最新技術がぎっしりと詰まった貴重な技術文献と考えられます。実際,特許に対する意識が高い企業では,自分たちが手掛ける製品に関する最新の公開特許公報を手に入れ,部署内の技術者同士で回覧したり,他社の特許技術の検討会を定期的に開催したりしています。技術分野によっては,外国企業や研究機関の公開公報も定期的にチェックするなど世界規模で開発動向を調査する場合もあるようです。
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Labels: 特許関係、PATENT
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